機関紙71号 (2011年11月19日発行)new!



もくじ

TPPは新自由主義の権化・米国の最後のあがき
   北村 肇(『週刊金曜日』発行人)
    国民の安全より大企業の利益
憲法審委員の選任を強行、改憲策動は新段階に
大阪維新と昭和維新
   浜林正夫(一橋大学名誉教授)
    改憲推進するのは必須
    尊重すべきは個人の主体性
私の発言(市議特集)
   脇 晴代(所沢市議)
    もう一度、読み直そう「平和憲法」 根気よく、そしてあきらめず…
鈴木彰の「舵を切る方向に何が待つのやら」
新連載「安保条約徹底検証」番外編 1
   松本善明(元衆議院議員・御幸町在住)
    戦後の謀略事件の謎を解くキーワードを三鷹事件から見る 1
     ●国鉄関係三大謀略事件の一つ
     ●死後再審請求が始る
メディアウォッチ100
   池田龍夫(ジャーナリスト・元毎日新聞)
    新潟県や秋田県の一部からもセシウム検出
    科学者は真摯に話し合い、合意形成を目指せ
    住民を犠牲者にしてはならない
「憲法改正論議より優先すべき課題がある」
   田原恒男(元読売新聞)
    読売世論調査が示すもの
     世論はそれほど甘くない
     読売新聞よ立ち止まれ
「九条を生かす」
   ●米軍駐留は「憲法違反」とした伊達判決の今日的意味
    編集長 鴨川孝司
短 信
   ◆「脱原発」でひらく新しい日本く
   ◆第4回『カフェ・サロン』




TPPは新自由主義の権化・米国の最後のあがき

北村 肇(『週刊金曜日』発行人)

 反原発派の大半は、太平洋経済連携協定(TPP)にも反対しています。これを裏から見れば、原発推進派はTPP支持ということになります。当然でしょう。なぜなら、原発もTPPも「1%」にはプラスで「99%」にはマイナスだからです。

 わかりやすい事例を一つ上げてみます。あの、何が何でも原発は推進すべきだと息巻き、「脱原発」の菅直人首相をくそみそに批判し足を引っ張った米倉弘昌経団連会長。彼はTPP支持の急先鋒であり、実は「利害関係者」でもあるのです。

 TPPが発効すれば、遺伝子組み換え(GM)作物の表示が緩和される危険があります。いまは一般的な「この食品には遺伝子組み換え作物が使われていません」という表示がなくなるのです。このことを最も待ち望んでいるのが、GM作物のトップ企業、米国モンサント社です。そして、米倉氏が会長を務める住友化学工業こそ、モ社の日本におけるエージェントなのです。何をかいわんやです。

 経団連が「原発再稼働」にこだわる一番の理由は、「電力の供給能力が下がる」「電力会社の収益が下がり電気料金値上げにはねかえる」ことを恐れるからです。要するに、大企業の収益を市民の命や健康より上位に置いているということです。

国民の安全より大企業の利益

 だから、書くのが嫌になるような「補償のための申請書」を平然と被災者に送りつけたりできるのです。
 また、福島原発で事故収束に向けて必死に働いている人の9割以上は下請け労働者です。彼らには「名前」がありません。東京電力からみれば、「取り替え可能の機械」にすぎないのです。「A」や「B」という記号なのですから、亡くなろうが、放射線被曝を受けようが関係ありません。数千万円の報酬を得ている役員どもには「緑の血」が流れているとしか思えません。

 原発輸出に関しても同じことが言えます。1兆円ともいわれるビジネスで潤うのは大企業だけです。輸出先の国民の安全など二の次。三の次、自社の利益のためなら何でもありの、許し難い姿勢です。

 TPPに話を戻すと、これは1994年に始まった「年次改革要望書」の拡大版にほかありません。本来は、日米両国が互いの「要望」を伝えるはずが、一方的に米国が要望し日本が飲み続けた、それが「年次改革要望書」の実態です。

 しかし、民主党政権が誕生し、「対米自立」を打ち出した鳩山政権になったことで、事実上、なくなりました。そこで、米国はさらに広範な要求を盛り込んだTPPを押しつけてきたのです。当然、「要望書」にもあった混合診療の解禁もテーマになります。いうまでもなく、これは「金持ちだけがいい医療を受けられる」制度で、「1%」にとっては朗報でしょうが、「99%」にとっては、とんでもないことです。

 世界中で「99%」の反乱が起きています。ついには米国の「ウォール街占拠」にまでつながりました。この流れはもう止まりません。新自由主義の崩壊は避けられないのです。

 福島原発事故はさまざまな意味で、「新自由主義社会における災害・犯罪」です。TPPは新自由主義の権化・米国の最後のあがきです。だから、「すべての原発を廃炉に追い込み、TPPをつぶす」闘いは、命の尊厳を取り戻す闘いなのです。
(元毎日新聞社会部、新聞労連の委員長も務める)



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憲法審委員の選任を強行、改憲策動は新段階に

 TPPや復興増税論議に隠れて、改憲への策動が急ピッチで進められている。衆参両院本会議は10月20日、改憲原案を審議する憲法審査会の委員選任を行った。

 もともと07年の国民投票法=改憲手続き法は、自民、公明による不当な「強行採決」で、成立したものであり、審議も不十分のまま、数の力で押し切ったことは、憲政史上に重大な汚点を残した。

 しかし、改憲原案の審査権限を持つ憲法審査会の委員が選任されたことは、改憲策動の新たな段階を画するもので注視しなくてはならない。

 選出された委員には改憲派が顔を並べ、民主・自民の新たな“改憲共同”の模索が見て取れる。衆院では、民主党から、新憲法制定議員同盟の顧問に復帰した鳩山由紀夫元首相、「96条改正を目指す議員連盟」の呼びかけ人代表の小沢鋭仁元環境相、同党憲法調査会長の中野寛成元国家公安委員長らが名を連ね、自民党から保利耕輔同党憲法改正推進本部長、中谷元・同事務局長(元防衛相)らが選ばれ、参院では、民主党から鈴木寛同党憲法調査会事務局長、直嶋正行元経済産業相。自民党からは中曽根弘文・新憲法制定議員同盟幹事長代理らが選ばれた。

 選出された自民党議員の一人は、「これからは改憲の骨格について議論していく。具体的にどこをどう改正していくかという議論になる」と強調したという。

 しかし、改憲手続き法の強行・憲法審査会の国会設置から4年以上、委員の選任が進まなかったこと自体、憲法改定を望まない国民世論の強さを示してきた。改憲手続き法の強行直後、夏の参議選で自民党が惨敗。憲法審査会規定を強行した後に麻生政権が政権から滑り落ちた。さらに消費増税、日米同盟強化を推進した民主党も惨敗した。国民の憲法改正、とりわけ九条の改正に反対なのは、各種の世論調査でも明白である。だが、今回は民自公の翼賛体制が進む中で行われただけに警戒が求められる。

 いま、国民が求めているのは、憲法を変えることではなく、日本国憲法を大震災からの復旧・復興、原発事故に生かすことである。



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大阪維新と昭和維新

浜林正夫(一橋大学名誉教授)

 大阪維新という言葉を聞いて私は明治維新ではなく昭和維新を思い出しました。昭和維新というのは昭和初期の右翼の運動で、当時の不況のなかで宮中某重大事件(裕仁天皇の結婚相手をめぐるトラブル)とか財界ではスキャンダルが続発するなかで政治が混迷している世情を憂いたものです。「昭和維新の歌」がしきりに唄われましたが、そのなかには「権門上に傲れども/国を憂うる誠なし/財閥富を誇れども/社稜を思う心なし」という節がありました。

 いまの世の中もちょっとこんな感じがしないでもないのですが、しかしこの歌の結びは「われらの剣今こそは/廓清の血に躍るかな」となっていてテロを訴えたものでした。そしてじっさいに軍の一部が5・15事件や2・26事件を起こしたのです。

改憲推進するのは必須

 「大阪維新の会」を結成した橋下前知事が教育基本条例案と職員基本条例案を府議会に提出し、成立をはかっていることはご承知のとおりで、この反動的な案については多くの人が批判していますので、私はあまり立ち入りません。ただ教育基本条例案の「基本理念」のところで、個人の自由とともに規範意識を、権利とともに義務を重んじ、わが国及び郷土の伝統と文化を深く理解し、愛国心及び郷土愛に溢れる人材を育てるなどと述べているのを見ると、これはかって自民党が出した改憲案の理念とそっくりだという気がします。

 さらにそれ以上に橋下氏は「政治に独裁は必要」とまで言い切っているのですから、これは自民党以上の反動で、これを実現しようとすれば憲法に抵触することはあきらかです。

 大阪「都」を作るためには地方自治法改正が必要ですから、橋下氏はやがて国会議員に出馬するつもりでしょう。そのとき「大阪維新の会」は改憲推進の会になるでしょう。

 橋下氏は「いまは政治が教育から遠ざけられている」といいますが、その教育改革は逆に教育を政治に従属させようとするものです。それが亡国の道であることは戦前の歴史が証明しています。

 1872年に学制が公布されて以来、教科書検定が行われてきましたが、しかし検定だけでは教育勅語の趣旨が貫徹されないという声が起こり、1903年からは教科書は国定となりました。これに対して大正デモクラシーのなかで生活綴り方運動とか自由絵画などという国定教科書にとらわれない運動(新興教育運動)がひろがりました。いま橋下教育改革に対して「教育への土足介入だ」という批判の声が上がっていますが、じっさい昭和初期には授業中の教室へ警官が入ってきて新興教育運動に参加していた教師を連行していったことさえあったのです。こうして小学校はやがて国民学校になり、日本は戦争に突入していきました。

尊重すべきは個人の主体性

 戦後、自主的な教育がはじまりましたが、やがて教育委員の公選制が廃止され、学習指導要領の押し付けが進み、東京では君が代・日の丸の強制に反対する教師が処分されるというところまで反動化が進みました。教育基本条例案の基本理念では「世界標準で競争力の高い人材を育てる」という目標が掲げられていますが、政治に従属した教育からはこういう人材は生まれません。そこでは個人の主体性が奪われていくからです。




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私の発言(市議特集)

もう一度、読み直そう「平和憲法」 根気よく、そしてあきらめず…

脇 晴代(所沢市議)

 東北大地震と原発の事故、TPP、PK0派遣、武器輸出禁止三原則の行方、年金問題、憲法の問題、原子力発電の輸出、円高など、今年は一気に課題がてんこ盛り状態です。

 3月11日の午後の大きな地震の揺れの最中に予測できなかったことがたくさん起きています。原発事故の放射性物質による汚染の問題で、気持ちが重くなって辛い日々がつづきます。

 しかし、いつもと変わらぬ日常生活の現実もあり、自分の気持ちのバランスをうまく保つことができずにいます。原発事故現場で働く人たちの大変な状況を思うと、安全に働ける労働環境の保全がきがかりでなりません。収束にむかって、どれだけの時間と労働力が必要となるのだろうかと暗澹とした気持ています。

 原発事故の後、使用済み核燃料の最終処理の方法が見えていないこともわかりました。事故前の自然環境を取り戻すためには気の遠くなるほどの時間がかかることもわかりました。汚染された汚泥や焼却灰をどうするか…、日々の食事やこどもの遊び場、安心して暮らせる環境はもどるのだろうか? 頭を抱えることばかりです。

 今回の東北大震災と原発事故対策は最優先されなければならないのに、政府は脱原発には動かない。あの6万人のデモに参加した知人は、報道の扱いの小さかったことを怒っています。でも根気よく、今できることから取り組んでいくことが大切だと思います。

 まず憲法が私たちの生活をいかに守っているか、改めて条文を読み直し、平和憲法の大切さを確かめあわなければと痛感する日々です。

 次に環境の問題ですが、急性毒性ではなく、じわじわと遺伝子をきずつけ、健康被害が生じたときに、原因の特定が難しいという事態になっていく、そういう観点で、放射能・ダイオキシン類・有害化学物質の本質的な問題は共通しています。

 ごみ焼却により、目に見えない化学物質が大気中に拡散し、環境に負荷を与え、健康に被害を与えることをふせぐために、所沢市のプラスチック類焼却に反対してきました。プラスチック類焼却が始まった現在、所沢市は実証試験で測定した排ガスの項目の測定を継続し、市民にその数値の分析を示していく必要があります。

 もちろん実証試験のときに測定された水銀については、安全を確認するためにぜひ、測定をしていくべきだと考えます。焼却実施後の測定結果で排ガスの中のダイオキシン類の数値も上昇傾向を示しています。継続した測定で実態を確認することが重要です。
 あきらめず、よりよい環境が実現するよう、行動していかなければならないと痛感しています。

(市議の「私の発言」は原稿が届き次第、順に掲載します)




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鈴木彰の「舵を切る方向に何が待つのやら」




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新連載「安保条約徹底検証」番外編 1

戦後の謀略事件の謎を解くキーワードを三鷹事件から見る 1

松本善明(元衆議院議員・御幸町在住)

●国鉄関係三大謀略事件の一つ

 2011年9月11日、三鷹市で全国からの参加者約150人で「三鷹事件の真相を究明し、語り継ぐ会」が発足しました。その際私は記念講演を行いました。限られた紙数で講演内容を書くわけにはいきませんが、戦後の謀略事件については無数と言ってよいほどの本が刊行されています。三鷹事件はその中の重大な一つの事件です。

 「日本の黒い霧」を書いた松本清張さんは、そのあとがきにかえて「なぜ日本の黒い霧を書いたか」という文章を書いておられますが、その中で台風のなかに原爆を投げ込んだようにたたかいは急速に衰え、国鉄、東芝の人員整理が進んだ状況を経営者側の証言をもとに明らかにされ、「しかし、最大の利益配当をうけた者はGHQだった」とされています。清張さん自身は「日本の黒い霧」のなかで三鷹事件は取り上げていませんが、おそらく日本共産党関係被告は全員早期に無罪が確定し謀略の目的が果たせなかったからと竹内さんの問題も霧の中だったからでしょう。

●死後再審請求が始る

 清張さんが「日本の黒い霧」を書いたのは1960年、まだ松川事件も有罪判決が最高裁で破棄差し戻しとなった段階でした。しかし、今は松川事件の被告とされた人たちは全員無罪、国家賠償も行われ松川事件は世界的にも有名な政治的冤罪事件となり、人権擁護の金字塔になっています。

 今の時点で三鷹事件をみると、死刑判決を受け再審請求をしたが、その結論が出ないうちに獄死された竹内景助さんのことを思うと私は本当にいたたまれない気持になります。丁度、高見澤昭治弁護士の詳細な研究『無実の死刑囚 三鷹事件竹内景助』(2009年日本評論社刊)が出版され、まもなく遺族の方と同弁護士とを中心とした弁護団によって、死後再審がはじまるでしょう。冤罪のまま遺族として残された方の中には、もうやめてくれという意見もあるようですが、そのご苦労を思うと、察するに余りあります。それだけに竹内さんの無実を晴らすために、及ばずながら力を尽くしたいと思うのです。それは、6人の死者を出した事件の真犯人を探し出す第一歩の仕事にもなりうるものです。おそらく6人の犠牲者に対する最大の追悼にもなるでしょう。

 事件の詳細を語る字数はありませんが、三鷹事件は事件発生約1年後の1950年8月11日、東京地裁で共産党員被告9名全員無罪の判決が出され、これは最高裁まで検察側が争うが55年6月22日無罪が確定します。一方、共産党員ではなかった竹内さんの方は、単独犯行、共同犯行、無罪、単独犯行など自白が5回も転々し、東京地裁で無期懲役の判決を受けます。控訴審では東京高裁所が書面審理だけで一審の無期懲役判決を破棄して死刑。最高裁もまだまだ、何の事実審理もせず、8対7の僅差でこれを確定させました。竹内氏は再審請求するのですが、請求中に死亡して再審が終了。最後に「くやしいョ!」のひとことを残して命を終えたのです。

 このように、事実調べは一審で行われただけで死刑にするというのは司法による虐殺のようなものだと私は思います。少数意見もここに集中しました。またわが国刑法学者である東京大学名誉教授で必ずしも進歩的とは言えない小野清一郎氏も反対意見を述べられ、最高裁もその後はこういうことはしない事になったほどです。(次号に続く)




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メディアウォッチ100

池田龍夫(ジャーナリスト・元毎日新聞)

 事故後7ヵ月経った今も、原子炉周辺は高濃度汚染に阻まれて内部の状況は不明なことだらけだ。また、周辺地域の放射性物質除染に全力を挙げているものの、住民が安心して住める状況にまで修復されていない。

新潟県や秋田県の一部からもセシウム検出

 文部科学省が航空機で測定した放射線セシウムの蓄積量発表(10・12)によると、新潟県と秋田県の一部でも高い数値が計測された。新潟県魚沼市や村上市などで、年間1ミリシーベルトを超える数値。秋田市や湯沢市の一部でもセシウム137が計測された。関東地方を含めかなり広範囲に放射性物質が飛散している実態を示すもので、その影響についての情報が乱れ飛んで、不安を増幅している。被ばくについて明確な指針(基準)がなく、メディアも「何ミリシーベルト」との数値発表にのみ追われているのが現状である。

科学者は真摯に話し合い、合意形成を目指せ

 事故収束の見通しが立たないことにイライラが募っている折、「科学者の意見が分かれて誰を信じてよいのか分からず途方に暮れる。そんな状況が人々の不安を助長し、科学者への不信を増殖する。いま最も深刻なのは低線量放射線の健康影響だ」と前置きして、科学者間の「合意形成」を求めた日経新聞10・10朝刊オピニオン面の鋭い指摘が目に止まった。

住民を犠牲者にしてはならない

 福島医科大学で9月、放射線国際会議が開かれたが「ニューヨーク州立大のプロメツト教授(精神医学)が、「科学者がいかにコミュニケーションを苦手とするか痛感する。被ばくが心配な住民は大きな声をあげて、専門家に何をしてほしいか求めてもらいたい。沈黙の犠牲者になるのではなく」と強調したという。

 人間の命に関わる放射線問題につき、科学者が垣根を越えて真摯に論じ合い、共通点を見出す努力こそ肝要である。たとえ合意できなくとも、その過程を国民に示して、最終的には個人の判断に委ねるべきではないか。被災者に苦悩をもたらした元凶は、原発安全神話を鼓吹した「原子力村」の科学者たちである。被ばくの不安を生涯背負って生きなければならない人たちに対して、明確な指針を示すことこそ科学者の責務である。

(いけだ・たつお)元毎日新聞社整理本部長、中部社編集局長などを歴任。著書に「崖っぷちの新聞」、共著に「沖縄と日米安保」など。




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「憲法改正論議より優先すべき課題がある」

読売世論調査が示すもの

田原恒男(元読売新聞)

 読売新聞が世論調査の結果に期待したものは何か。国の安全にかかわる尖閣諸島沖の中国漁船衝突事件、北朝鮮の韓国砲撃など大きな事変が勃発。さらに東日本大震災・原発事故での自衛隊の活躍(?)をメディアが繰り返し報道。憲法改正推進派にとって近年にない好環境の中での「憲法に関する世論調査」となった。

憲法第9条・1項を改正する必要がある 16%
                ない 77%
      2項を改正する必要がある 35%
                ない 55%

 しかし、結果は憲法改正「賛成」の割合が上昇せず、横ばいでしかなかった、憲法改正に全力をあげてきた読売新聞にとって「やや意外だった」(東洋大教授・加藤秀治郎氏)どころか衝撃だったのではないか。

 それは、読売9月14日付世論調査特集面で「憲法論議にも震災が影」をトップ見出しに掲げたことに表れている。憲法改正の世論形成が思うように進まない原因に「震災」があったと嘆くのは、読売新聞の自由である。

 しかし、世論調査の結果が示すものは、「震災が影響している」だけで済まされるものではない。調査の中身に立ち入って考察してみたい。

 「今の政治状況は、憲法に関する論議を行うのにふさわしい状況だと思いますか」との問いに「そうは思わない」と74%が回答。その理由として複数回答であるが「憲法問題よりも優先すべき課題がある」が64%と突出して多い。この結果を「東日本大震災からの復旧、復興などの緊急の課題が山積していることが、改正論議の機運が高まらない要因」と分析している。しかし、国民が直面している「くらしと安全」に関わる深刻な問題を改正論議が高まらない要因としか受け止められない認識こそが厳しく問われている。

世論はそれほど甘くない

 今の政治、社会状況は「憲法改正に現(うつつ)を抜かしている時ではない」が国民の思いであり、現実である。憲法改正派の狙いである9条改正に対し、戦争放棄(1項)77%、戦争放棄(2項)55%が改正反対であり、調査結果が思惑外れであっても、この国民の意思に目を背けることは許されない。「政治と大手メディアが世論の一歩先に出て改正論議をリードし、国民意識を啓発していくこと」(加藤秀治郎氏)を期待しても、世論はそれほど甘くない。そのことを世論調査の結果が示している。

 明文改憲が困難であることを自覚している改憲勢力は、集団的自衛権の政府見解に攻撃を集中している。政府見解(権利をもっているが、憲法上行使できない)は、現実を無視したものと非難。政府見解の変更を改憲の突破口にしようと政府・政界に働きかけを強めている。

 その立場から改憲勢力にとって世論調査の結果に「救い」の部分があったかも知れない。「憲法を改正して集団的自衛権を使えるようにする」21%、「憲法の解釈を変更して集団的自衛権を使えるようにする」28%、あわせて49%が容認派であり、昨年より4ポイント上昇したと強調している。

 しかし、集団的自衛権を「日本と密接な関係にある国が武力攻撃をうけたとき、日本の安全を脅かすものとして、攻撃した相手に反撃する権利」とあたかも防衛的行為のように誘導、設問しても「これまで通り使えなくてよい」42%が厳として存在している。集団的自衛権容認とは程遠い現実である。ましてや米国が海外で引き起こす軍事行動に自衛隊が一緒に参加するものでしかない「集団的自衛権」の実態が明らかになれば「49%」は「砂上の楼閣」に過ぎない。

読売新聞よ立ち止まれ

 憲法改正が社論である読売新聞にとって今の政治、社会情勢は想定外であった。「東日本大震災から半年あまり、この国のどこか深いところで変化が起きている」(9・21日朝日社説)なかで焦燥感があるのかも知れない。自らの世論調査の結果さえ、ご都合主義よろしく引用し、「国民の多くが国会での論議を望んでいる」として憲法改正論議の促進を政府に迫っている(9・19社説)。その上、9・19「さようなら原発」6万人集会を無視する紙面作りは異常と言うしかない。

 社論の「制約」があるとしても、情勢の変化に冷静に向き含うことさえできない社内状況なのだろうか。それでもなお、若返った読売グループ首脳陣や労働組合の新聞研究活動に今後も注目していきたいと思う。




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九条を生かす

●米軍駐留は「憲法違反」とした伊達判決の今日的意味

 新原昭治著の「米国立公文書館などで入手した米政府の解禁秘密文書によって、戦後60年余、日本をアメリカに従属させてきた日米安保体制の隠された真実に迫ろうとするものである」とする「日米『密約』外交と人民のたたかい 米解禁文書からみる安保体制の裏側」。この衝撃を与える本の紹介を今回はします。

 第一章は「米軍駐留は『憲法違反』」。著者が2008年4月、手にした米秘密電報は「米軍駐留は憲法違反」と断じた東京地裁の伊達秋雄裁判長の判決に対するものでした。

 その裁判は1957年7月8日に起きた事件で、日本政府は立川米軍基地拡張のため、土地敢り上げを強行し、反対闘争支援の若干の人が基地内にほんの数メートルほど足を踏み入れた。それを「刑事特別法」(米軍地位協定)違反として起訴した事件の裁判です。

 裁判長は「結論として、安保条約(旧条約)にもとづき日本政府の要請で駐留が実現した経過から見て、指揮権の有無にかかわらず、日本駐留の米軍は憲法第九条が保持を禁じる『日本の戦力』に当たる。その見地から米軍の駐留を憲法違反と断定した」。そして、七人の被告全員に無罪を言い渡したのです。

 伊達判決に衝撃を受けた駐日米大使ダグラス・マッカーサー2世は判決の翌朝以降、藤山愛一郎外相や田中耕太郎最高裁長官との密談をくりかえし、同判決のすみやかな破棄を日本政府の最高首脳らに求めたとあります。マッカーサーは、日本政府が迅速な行動をとり東京地裁判決を正すことの重要性を強調した。

 私はこの判決が、藤山が重視している安保条約についての協議に複雑さを生みだすだけでなく、4月23日の東京、大阪、北海道その他でのきわめて重要な知事選挙を前にしたこの重大な時期に、大衆の気持ちに混乱を引きおこしかねないとの見解を表明した」と電文報告。最高検は跳躍上告したのです。

 著者は「同判決は、憲法第九条を現実政治に蘇生させるための礎石を据えるものとなった。いまも、安保条約という名のアメリカとの軍事同盟条約を、自国の憲法原則に優越させる状況がつづいている」と記しています。同感です、そしてこのことが、この欄でこの本を紹介する気持ちとさせました。

 本書には、「第二章 植民地化反対と軍政」では、引き続けられた沖縄の支配を、「第三章 ベトナム戦争と日本」、「第四章 闇の中の核持ち込み」、「第五章 隠される主権侵害と災難」と日本の主権に関わる重大問題でのアメリカの狡猾なやり口を、白日の下にさらしだしてくれます。読んでいて情けなく感ずるのは、どの局面でも屈辱的に迎合している日本の高官が何人も現れ、その屈辱が地ならしされて、日米安保体制が維持されているということです。

 問題は日米安保体制が、今日の福島原発事故発生の遠因となり、その復興への道に大きな妨げとなっているという、鋭く現在の問題でもあるということです。原爆の惨禍から「過ちは繰り返しません」と誓った日本で、原発による国難ともいうべき難事にぶつかりました。日本の進路には、この憲法9条を躁欄する日米安保体制が大きく立ちはだかっていることを痛感させられます。
(編集長 鴨川孝司)




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短 信

◆「脱原発」でひらく新しい日本

日 時:12月3日(土)10:30〜16:30
場 所:東京・内幸町プレスセンターホール
主 催:12・3「『脱原発』でひらく新しい日本」実行委員会
第1部:「フクシマ」克服の道筋を問う(澤地久枝、金子勝)
第2部:脱原発と政治の役割・責任(川内博史、小池晃、福島瑞穂ほか)
第3部:メディアの責任とジャーナリズムの課題(桂敬一、鎌田慧、佐藤敦、松元剛、岡本厚)


◆第4回『カフェ・サロン』

歌とピアノへのお誘い
第4回『カフェ・サロン』は趣向をかえて、すてきなピアノ伴奏と歌です。クラシックからポピュラーまで、お好きな曲をピアノ伴奏つきで歌えます。
ピアノ伴奏は樺澤とも子さん。
ピアノ演奏 ショパン 英雄ポロネーズ他
こんな曲が歌えます バイカル湖のほとり、百万本のバラ、荒城の月、灯、菩提樹、埴生の宿、夢路より、ほか数曲、リクエストに応じます。
日 時:12月2日(金)午後3時半〜5時半
会 場:中央公民館(音楽室)
参加費:2000円(要予約)
よびかけ人 石田道男 佐藤俊広 白戸由郎 大森博子 竹田裕子 藤原絢子
主 催:『カフェ・サロン』
協 力:『マスコミ・文化 九条の会 所沢』




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