機関紙103号 (2014年10月1日発行)



もくじ

朝日叩き、市民として傍観していていいか
   藤田博司(ジャーナリスト)

戦争法制 止めるのはこれから

鈴木彰の「超タカ派女性を使う新詐術」

太郎の部屋のほっとたいむ 24
   女流劇作家書き下ろしシリーズ
   鈴木太郎(詩人・演劇ライター)

読売の主張、どう読み解くのか
   北村 肇(週刊金曜日発行人)

平和を求める闘いは必ず勝利する
   原田みき子(国頭郡本部町)

強まる閣議決定反対の声
   「安倍政権打倒」の運動に参加する時A
   佐々木次郎(当会会員・ジャーナリスト)

「NHKはどうなっているのか」
   永田浩三武蔵大学教授講演全文C

知られざる軍都多摩・武蔵野を歩く
   陸軍第九技術研究所(登戸研究所)
  




朝日叩き、市民として傍観していていいか

藤田博司(ジャーナリスト)



訃報

2014年10月5日、藤田博司氏が急性心不全のためご逝去されました。藤田氏は共同通信社でニューヨーク支局長、ワシントン支局長、論説副委員長などを歴任され、その後上智大教授、早稲田大学院客員教授を務められました。当会では、講演や機関紙への執筆をお願いするなど、活動にご協力いただきました。本稿が遺稿となってしまいました。心よりご冥福をお祈りいたします。



 朝日新聞に対する袋叩きが収まらない。やれ捏造だ、誤報だ、歪曲だと穏やかではない。週刊誌に至っては、国賊だの売国奴だのと、言葉の限りを尽くして朝日を罵倒している。

 確かに慰安婦報道については、虚偽の証言に基づいて日本軍による強制連行があったとまちがった報道をしたことは、申し開きの仕様もない。自社の報道を検証し最終的に訂正するまでに30年もかかったという点も責められて当然だろう。

 それに加えて、今年5月、朝日がスクープした福島原発事故に関する吉田調書(事故当時の原発所長・吉田昌郎氏=故人=の証言記録)に関する報道にも「誤報」との批判が浴びせられた。朝日の木村伊量社長は911日に記者会見し、記事の撤回を発表、責任者を処分した。朝日は文字通り満身創痩の状態にある。

 一連の不祥事は、仕事の現場が報道の「公正さ」を守るための基本作業を怠ったことに起因している、と筆者は考える。情報の確認、検証を手抜きしない。予断や思い込みを排除する。間違いがあれば速やかに訂正し、読者、視聴者に説明責任を果たす。そうした基本が守られていれば、問題が起きても少なくとも傷口を広げなくて済む。それが出来なかったことを朝日は深刻に反省し、そこから教訓を汲みとらねばならない。

朝日の弱体化を狙う

 しかし今回、反省しなければならないのは朝日だけだろうか。朝日に罵詈雑言を浴びせている週刊誌の報道には、もともと「公正さ」を期待することさえ難しい。週刊誌ほどではないが、朝日を厳しく批判している同業の新聞だって、過去にいくつも大きな誤報をして恥をかいている。自分たちの過去の失敗を棚に上げて、朝日の失態をここぞとばかり叩きまくってすましていられる場合ではないはずである。

 ただ一連の朝日叩きは、朝日のジャーナリズム上の不祥事を対象にしているわけではない。週刊誌や一部の新聞、それにインターネット上に行き交う朝日批判の真の狙いは、報道上の失敗にかこつけて、日本のリベラル勢力を代表する朝日の歴史認識や反原発の姿勢を徹底的に攻撃し、弱体化させることにある。自分たちも抱える朝日と同根の問題を棚上げにしているのはそのせいである。

萎縮で喜ぶのは誰か

 

 これで朝日の報道現場が萎縮し、弱体にな机ば、喜ぶのがだれかは目に見えている。朝日と同業の競争紙などではなく、背後で高みの見物をしている安倍自民党とそれを支える勢力である。新聞や週刊誌は権力の掌で踊らされているに過ぎないことをやがて気づくときがくるだろう。

 そんな日の到来を、われわれ市民は他人事のように遠巻きに見守っているわけにはいかない。節度も品位もない朝日叩きの愚をやめさせるために、われわれに何ができるか、知恵を絞りたい。



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戦争法制 止めるのはこれから

10月9日の街頭宣伝(16時から新所沢駅西口)にご参加を

 「九条の会」事務局がまとめた「具体的な行動提起」は以下のとおりです。

▽秋の臨時国会の冒頭となる2014年10月を全国統一月間に指定し、この期間に全ての九条の会が最低限1回は何らかの行動を設定し、取り組むよう呼びかけます。

▽活動形態は各種イベント、集会、公開学習会、署名、シール投票、ポスターの張り出しなど、九条の会らしい(「集団的自衛権の行使容認に反対し、憲法9条をまもる」という共通の課題で一致する全ての人々が加われるような配慮をした)取り組みとして、行われるのがのぞましいです。

▽臨時国会の重要な局面になると思われる11月24日(月・休)、日比谷公会堂で大規模な集会とパレードを企画したい。パレードは九条の会らしいものとして、皆さんの知恵を結集して、創意工夫したものにしたい。

 安倍内閣が閣議決定をしましたが、その具体化のため戦争関連法制をSTOPさせる運動はこれからです。



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鈴木彰の「超タカ派女性を使う新詐術」




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太郎の部屋のほっとたいむ 23

女流劇作家書き下ろしシリーズ

鈴木太郎(詩人・演劇ライター 中新井在住)

 演劇集団・円ではじまった女流劇作家書き下ろしシリーズ。9月は内藤裕子作・演出の「初萩の花」(19日〜28日=東京・田原町・ステージ円=初日所見)である。登場人物は7人、お彼岸の初日から始まる。三世代の家族構成を巧みに配し、個性的な俳優たちによって、さわやかな秋風を感受できた舞台であった。

 都心から離れた郊外の大きな農家を思わせるセット。少しぎこちない会話から始まっていく。熟年にさしかかた男・杉田健三(山崎健二)の家に、亡くなった弟の妻・杉田文江(高林由紀子)が同居している。文子の長女・孝子(谷川清美)、次女・順子(岸昌代)、三女・敦子(馬渡亜樹)、孝子の娘・佑香(牛尾菜由)たちが揃ってくる。健三は中卒で工場に勤め、定年後のいまは契約社員である。弟一家を支えることが生きがいであった。

 敦子は健三に習って農作業に精を出している。姉たちは敦子の結婚相手の話でもりあがってみたり、なにげない会話のなかに、人間関係の微妙さが浮き彫りにされてくる。それは、文江と健三の間にも見え隠れしている。高林由紀子と山崎健二は感情の微妙な揺れを抑揚のある演技で見せていた。敦子に好意を寄せる梨園の若者・折原秀一役の玉置祐也も若者らしい実直さを現していた。おはぎを食べるシーンなどいかにも日常生活が息づいたドラマである。

 このあと、10月は桑原裕子作・演出「朽ちるまにまに」(10日〜19日)、11月は角ひろみ作、平光琢也演出「囁谷シルバー男性合唱団」(3日〜12日)と続く。どのような展開を見せるのか楽しみな企画である。




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読売の主張、どう読み解くのか

北村 肇(週刊金曜日発行人)

 安倍政権の支持率が再び上昇気配です。内閣改造がプラスに働いたのでしょう。しかし世の中は好事魔多し。私は安倍政権の「終わりの始まり」とみています。

 新内閣が発足した翌日9月4日の『読売新聞』社説は意味深でした。メーンの見出しは《経済再生へ挙党態勢を固めよ》。これは当然ですが、問題はサブ見出しです。

 《「次」のリーダー育成も重要課題だ》 見出しになっているのですから、本文でもそれなりの分量で書かれているのかと思ったら、最後のわずか5行で触れているだけです。

 《首相自身、衆院当選3回で幹事長に抜擢された経験がある。石破、岸田両氏に加え、小渕、稲田両氏ら、将来のリーダーをきちんと育成してもらいたい》とってつけたような文章をわざわざ見出しにもってくる。これは極めて異例です。実は1面に掲載された橋本五郎特別編集委員のコラム「拝啓安倍晋三様」の見出しも〈長朝政権者えるな〉でした。

 安倍首相は59歳。政治家としては若手といっていい年齢ですし、国政選挙も連勝、支持率は高値安定とくれば、長期政権への道を模索するのは当然です。その宰相に対し、安倍政権の応援団とやゆしたくなるような論調の『読売』が、「いまから将来のリーダーを育成しておけ」と進言したのです。これをどう読み解けばいいのでしょう。

安倍政権と微妙な距離

 渡邊恒雄会長の政治的パワーは依然として健在といわれます。となると、渡邊氏が安倍政権と微妙な距離を取り始めたのは、水面下で「安倍降ろし」が動き始めている証しではないのか、私はそうにらんでいます。

 高市早苗氏、稲田朋美氏という安倍首相の「おともだち」閣僚がネオナチと目される人物と写真を撮っていた。この問題にも不思議なことがあります。もともと古い話ですし、日本ではほとんど話題になりませんでした。逆に大きく取り上げたのは海外メディアです。この一件で、「安倍政権は極右」という印象が海外で強まったのは間違いありません。オバマ大統領の耳にも入ったはずです。安倍首相にとっては大打撃です。

 だれが、どのような意図で情報を流したのかはわかりません。ただ一ついえるのは、霞が関官僚、とりわけ外務省の中で「安倍さんで大丈夫か」という不安感が高まっているということです。一見、順調に船出したかにみえる新内閣ですが、座礁はすぐそこです。



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平和を求める闘いは必ず勝利する

沖縄知事選を前にして

原田みき子(国頭郡本部町)

 きらめく海がまぶしい。辺野古の海はつかの間の静けさを取り戻している。しかし、この安息も間もなく破られ、再び国の意を受けた海上保安庁の船や黒いゴムボートで埋め尽くされるだろう。

 先日まで続いた浅瀬のボーリング調査では、基地建設に抗議するカヌー隊の市民を暴力で拘束する残虐な光景が展開された。木の葉のように大海に漂うカヌーから無理矢理市民を引きはがし、保安庁の船やゴムボートに「確保」してから首を絞めたり、何度も頭を海に突っ込んで無理矢理海水を飲ませる。しかもマスコミの船がいない時を見はらかってやる。拘束された女性がスキを見てスマホで撮った映像が新聞で報道され、県民の怒りに火を付けた。

 9月20日の県民行動では、辺野古の浜を人びとが埋め尽くし新基地建設を阻止することを誓い合った。そのためにも「辺野古に新基地を造らせない」新しい知事を11月に誕生させることも掲げた。

 今や辺野古には連日支援者が世界中から訪れている。戦争のための基地を許さない闘いは、世界中の平和を求める人びとの共感を呼んでいる。また、軍事国家をめざす安倍政権に危機感を抱く人びとにとって、辺野古は看過できない問題である。私たちは負けない。正義は私たちにあり、この闘いは必ず勝利する。




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強まる閣議決定反対の声

「安倍政権打倒」の運動に参加する時A

佐々木次郎(当会会員・ジャーナリスト)

 この閣議決定に対し、世論の反発は大きい。報道機関の世論調査では「50%以上が反 対」で、全国で200近い市町村議会が反対や慎重審議を求める意見書や決議を可決。

 新聞報道でも、全国紙では相変わらず読売、産経、日経が賛成だが、朝日、毎日が反対のほか、ブロック紙や地方紙(地元紙)43紙のうち東京を筆頭に北海道、信濃毎日、西日本、琉球新報など40紙という大多数が反対の論陣を張り、賛成は北国、富山、福島民友の3紙だけ。

 反対各紙は「権力の監視」という使命を果たしていると言えるが、これまで大きな政治的課題について政権寄りの姿勢が目立っていたマスメディアだけに、これを機会に国民の立場からの報道に徹してほしい。

 一方、全国津々浦々で各界の団体やグループによる「憲法守れ」の国民的な運動が広がっている。東京では「解釈で憲法9条を壊すな!実行委員会」、「戦争をさせない1000人委員会」、「九条の会」などを中心に、国会周辺での集会、デモが行われている。各種の講演会、学習会、署名活動も盛んだ。特に今、まさに出番の「九条の会」は発足10周年を迎え、全国7500に拡大、同会呼ぴかけ人の作家・大江健三郎氏は「平和な日本は、戦争か平和かを選べる。平和のため、一緒にできることは限りなくあります」と訴えている。

 私が住む中堅都市でも、「九条の会」が全市横断的なものから地区別まで11グループ(会員1000名)も誕生、集会や市内デモ、駅前での「9の日宣伝」や「憲法9条にノーベル平和賞を」の署名集めにも取り組んでいる。

「違憲訴訟」の闘いも

 一方、閣議決定の「違憲訴訟」の闘いも始まった。解釈変更が「憲法が許容する範囲を超えて違憲だ」というもの。同時に自衛隊法など安保関連法に関する個別の違憲訴訟も提起されよう。すでに元三重県職員がこのほど、安倍首相と閣僚を相手取り、閣議決定の無効を求めて東京地裁に提訴した。松阪市の山中光茂市長も提訴するため、活動母体の市民団体「ピースウイング」を設立した。全国の自治体首長や議員、一般市民に参加を呼び掛ける。山中市長は「愚かな為政者が戦争できる論理を打ち出したことで幸せが壊される。国民全体で幸せを守っていこう」と訴えている。

 違憲かどうかの憲法判断の最終権限は最高裁にある(憲法81条)が、政権寄りの傾向が強い最高裁だけに、公正な判断を期待できるかどうか。「高度な政治的問題は司法審査権の範囲外」(統治行為論)として判断を回避するかもしれない。幅広い国民運動と世論の力がカギである。

日米「血の同盟」目指す

 ところで、安倍首相の強硬姿勢はどこからきているのだろう。自公合わせて国会で多数の議席を独占していることへの過信があるが、根本は安倍首相の右翼的な民族主義思想そのものではないか。中国、北朝鮮の動向から「安保環境が悪化している」「日米同盟の強化」などを理由に解釈改憲し、「戦後レジームからの脱却」とも主張している。安倍首相には60年安保条約改定を成し遂げた祖父・岸信介元首相の信念を継ぎ、「安保条約の双務性を強める」、つまり日米軍事同盟を双方が命を懸けた「血の同盟」に強化するという強い願望がある。侵略戦争を美化する「靖国史観」の信奉者でもある。新憲法の下で平和的、民主的に発展してきたこの国の形を、憲法改正によって国防軍を持ち、天皇を元首とした戦前のような体制に再編するのが狙いだ。欧米のマスコミから「歴史修正主義」、「極端な民族主義」との批判も出ているが、貸す耳を持たない。

安倍政権を打倒しよう

 特定秘密保護法の強行可決、靖国参拝、消費増税、原発再稼働の推進、沖縄・辺野古での新基地建設、そして今回の暴挙…。報道機関の調査でも内閣支持率がこれまで最低の40%台に急落した。滋賀県知事選では有力視されていた自公推薦の候補が落選し、自民幹部も強引な閣議決定が影響したと認めている。

 10月26日には原発事故被害に苦しむ福島県で、11月16日には辺野古新基地建設で揺れる沖縄県で知事選がある。また、消費税10%への再引き上げ判断、さらには来年4月の統一地方選へと、安倍政権には逆風の中、難しい局面が続く。9月早々の内閣改造 で陣容を整え、支持率の反転を狙うが、国民はだまされない。

 自民不利の情勢から、安保関連法案を来年1月の通常国会に提出し、実際の審議は統一地方選後まで先送りするようだが、国会内の論戦と国会外の運動を盛り上げて、この関連法案を葬り去り、閣議決定の実施を阻止したい。

 今、私たちに必要なのは軍事的対応ではなく、中国、韓国、北朝鮮などとの平和友好関係を強化し、平和的な安全保障の枠組みを確立することである。戦争できる国づくりへと暴走する危険な「安倍政権打倒」が課題になってきた。




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「NHKはどうなっているのか」

永田浩三武蔵大学教授講演全文C

 NHKが2000年の終わり頃に、20世紀を総括する番組をたくさん作りました。2001年に、人道に対する罪4本を企画しました。その内の1本が慰安婦問題でした。2000年の12月に九段会館で女性国際戦犯法廷が開催されました。これはアジアの慰安婦にされた被害女性の方たち、それから、国際法の専門家の方たちが、一堂に会して、慰安婦問題とは何なのか、隠蔽などを、1945年時点での認められていた国際法によって裁くということがありました。民間の集会ですので、法的拘束力はありませんが、しかし、現実的問題として、極めて大きな意義がありました。

 この女性国際戦犯法廷はひな形がありました、1960年代にバートランド・ラッセルとかサルトルとかが始め、継承して作られた「ラッセル法廷」がありました。これはベトナム戦争でいかに残虐なことが繰り返されているかを国際的な見地から法廷というものをしつらえて法的に戦争の残虐性について告発するという集まりでした。このラッセル法廷は関心を呼び、最終的に北爆の中止、ジョンソン米大統領退陣、ぺトナム戦争の終結になっていきます。

 これをお手本にして、女性国際戦犯法廷が開かれました。安倍さんは、とんでもない、カルト裁判だと言っていましたが、それは無理があります。90年代に国連の人権委員会で、すでに指摘がなされていました。

 番組は2001年の1月30日に放送されることになりました。7時のニュース、ラジオでも前年の12月に九段会館で法廷が開かれましたと、取り上げました。ところが、右翼団体から抗議を受けることになりました。NHKの社屋の中に右翼の人たちが抗議にやってくることが続くのです。

 しかし、NHKは右翼の攻撃に屈することはありませんでした。番組の放送は2001年1月30日にされましたが、1月26日からの動きについて詳しく申し上げます。

 私が4本シリーズの総責任者、編集長でした。NHKの番組制作局長、放送総局長、総合企画室担当局長は国会対策の総責任者、この3人が突然、私たちを呼んで、どういう番組になっているか事情を聴きたいと集められました。私は「こういう番組になっていますよ」と、偉い人たちに向けて説明をしなければなりませんでした。

 なぜそんなことが起きたのか後になって分かったことですが、1月25日に、ある国会議員がアジアの視察から帰国して、その人は中川昭一さんでしたが、カンボジアの視察から帰ってきてNHKがとんでもない番組を作るらしいと、語ったのです。ひどいことが、いまNHKで起きているらしいと、NHKに揺さぶりをかけます。これが始まりです。

 26日に現場の人間が偉い人に説明をするということになりました。そこで、言われたことは、女性国際戦犯法廷に批判的な懐疑的な、ひどい法廷だと文句を言っている人の意見も紹介しなさい。それから、海外の動きも冷静に伝えてほしいということで、やや、番組について批判色の強い、色合いを出してほしい、と言われました。番組自体は変わるわけではありませんので、少し番組を変えるということを始めました。

 放送の前日、1月28日、上の人たちの指示で少し変えた番組が仕上がりました。夕方、5時に仕上がったものを上の人に見せるということになっていたのです。ところが、上の人たちは、なかなか戻ってきません。1時間遅れて、汗びっしょりでコートを着たまんまで、室に入ってきました。私は会議室の外に出されて、待たされることになります。その中で、合意していたはずの番組が劇的に変えられることになりました。日本政府が曲がりなりにも慰安婦問題を取り組んで来たことを含んで、削除するとか、被害に遭った人たちの証言を削除するとか、中国戦線でひどいことをした兵士たちの証言を削除するとか、さまざまな削除命令が出されるわけです。これはとんでもないことでした。番組は44分ですが、あんまり削るところが多すぎたので、30分台後半ぐらいになってしまいます。どうでもいいものをやたら足して、44分に復活するのですが、ひどいものでした。改変の指示を私にしたのは、国会担当の局長で、現場の人間以外が指示をするのは、前代未聞のことでした。

 後で分かったことですが、遅れて来たのには理由があって、それまで永田町におり、会っていた政治家の一人は安倍晋三氏、一人は荒井広幸氏、そういう人がNHKの幹部にいろいろ意見を言うのです。後に朝日新聞の本田記者がスクープをものにします。2005年の1月12日のことです。

 そのことで明らかになったことがあります。安倍さんと中川さんが、放送前日にNHK幹部にいろいろと意見を言ったと、中川さんは「放送を止めてしまえ」と言ったと伝えられていますが定かではありません。安倍さんははっきり認めていて、公正中立にやってくれと言ったといいます。そして「かんぐれ」と言ったといいます。あまり上品な言葉ではありませんが、全部言わせるな、察しろということでしょうか。当時、安倍さんの役職は官房副長官、つまり政府高官です。日本国憲法には検閲してはならないと書いてあります。検閲とはなにかと言うと、議論が分かれるところですが、政府の人間が事前に出版や表現について、意見を言って変えてしまう、あるいはチェックをするということを検閲といいます。これをしてはならないとあります。当時、安倍さんは政府高官、NHKの番組の放送前に、ああしろ、こうしろは検閲に当たります。で、憲法違反です。安倍さんが憲法を理解していたかどうか定かではありませんが、番組を変えるとは言っていないということになっています。しかし、「かんぐれ」とは言っているのです。これが前日に起きたことです。

 放送当日、30日の夜10時。前日、ものすごい番組の変更が発生したので、現場は大騒ぎでした。夕方、5時頃、最終番組ができあがりそうになったとき、再び放送総局長から電話が入りました。再度、番組を削るようにとの指示でした。削る中身はわずかながら生き延びていた慰安婦の方々の証言をまた切れと言ってきました。さすがに、私も放送総局長に文句を言いに行きました。私は下端のプロデューサーですから、放送総局長の部屋が分からないのです。番組総局長の部屋まで行って、「こんなことがあっていいのですか」と叫びますが、みんな下を向いています。一人だけ、私がついて行きますとエスコートしてくれた方がいました。21階の放送総局長の絨毯ふかふかの所に連れて行ってくれました。入っていくと、国会担当の野島総局長と伊藤番組総局長と松尾放送総局長の3人が立って密談をしていたところに、私が入っていったのです。私は叫びます。「こんなことしていいのですか、なんとか改めて下さい」と。番組総局長は泣きそうな顔で黙っていました。

 放送総局長は、「僕がニュースや番組の責任者だ、僕が納得できないものは、放送するわけにはいかない」。私は、「昨日、あそこまで変えたではないですか、なんで、いまさら、証言まで削れというのですか、この期に及んで、切るということは、ひどいことです。こんなことをやっていたら、NHKは信頼されなくなるので止めてください」と言うのですが、その時に国会担当の局長が、私に向かって、「君が真面目なのは分かるが決まったことなのだから」と業務命令を押しつけました。10分以上続きましたが、抗しきれませんでした。歳月がたって思うのですが、あのとき廊下の消化器のセンを抜いて、3人に向けて発射したら、どうなったのかと、いまになって思い出します。スタジオに戻ってもう1回、ハサミを入れることをやらざるを得ませんでした。放送は40分に切られ、とっても変な番組になりました。

 この半年後に、番組に協力された女性国際戦犯法廷の主催者の方たちから、NHKは訴えられます。損害賠償請求です。NHKに格段の協力をしました。こういう番組が出来ると信頼をして、期待をして、協力をしたのに、まったく裏切られましたと、それは不法行為にあたります、責任を取ってほしいので、損害賠償を求めますとの裁判でした。一審はNHKが勝ちました。取材に協力したからと言って、その通りの番組を作ってくれるとは限らないという判決です。二審の高裁結審がなされる前に朝日新聞の2005年1月のスクープがありました。私は東京高裁の証人として、すべて話しました。結果、NHKは高裁で負けました。私はNHKでご飯を食べてきましたので、お世話になっているNHKが負けるという、それは、サラリーマンとして裏切りになります。社会的にはそれで良かったと思っています。最高裁では、NHKがまた、勝ってしまいます。「番組をごろごろ変えるのは、当たり前でしょう」と、ひどい論議でした。残念なことです。

 ただ、NHKと民放の放送倫理について、自立のための機関としてBPOがあります。BPOがこのETV事件を取り上げて、NHKはきちっと何があったかを検証して、若い人たちも含めて議論をしなさいという、意見書を出しました。しかし、NHKは意見書を今日に至るまで、無視し続けています。残念なことです。籾弁会長の記者会見の時も、番組改編事件が記者の念頭にあったればこそ、慰安婦問題を質問したということです。NHKと政治権力のかかわりは、かくもどろどろした汚いものです。

 NHKは国民の財産です。受信料によって築き上げてきた貴重なものです。これが安倍さんの私物になることを断じて許してはなりません。いま、何が出来るかですが、一つは籾井さんの放送も安倍さんの放送も許してはなりません。もう一つは、NHKを反省させるのに、受信料の振り込みを中止して、自宅に集金にくるようにするだけで、経営に大きな打撃を与えることが可能です。(終)(講演は6月14日)




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知られざる軍都多摩・武蔵野を歩く

陸軍第九技術研究所(登戸研究所)

 川崎市多摩区のほぼ中央、小田急線生田駅から徒歩15分の明治大学生田のキャンパスの中に戦前に旧日本陸軍によって開設された研究所があります。正式名称は第九陸軍技術研究所ですが、「登戸研究所」と秘匿名で呼ばれ、地図にも陸軍法規資料にも掲載されていません。この研究所で何がされたのかを知れば、その理由は容易に分かるのです。基地プロジェクトの企画で、今回、そこを訪れます。
日 時:10月15日(水)午前10時
集合場所:所沢駅2番線ホーム特急券売場付近集合
問い合わせ:04−2998−7341白戸まで




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